みんなの街中

ブランドを支えるのは生身の人間。
だから、自分の好きなことに従っていく。

伊藤諒 × 宮原秀雄

アメリカ西海岸の小さなガレージに始まり、いまや世界各都市に100店舗以上を展開する「ブルーボトルコーヒー」。2022年8月、「Coffee in Nature」をテーマに国内を巡る「ブルーボトル コーヒートラック」が青島ビーチパークに到着した。コーヒーカルチャーを牽引する存在である「ブルーボトルコーヒー」が、宮崎市・青島を選んだ理由に耳を傾けた。

―お二人はどんな共通点で知りあったのでしょうか?

宮原僕は25年くらいぶりにゴルフを再開したんですけど、共通の知り合いがいて一緒に廻ったのが最初でした。伊藤さんは真面目な印象だったのですが、とてもユニークなキャリアでしたので、僕が運営するオンラインカルチャースクールの『ハミダシ学園』にも講師として登壇してもらったんです。

伊藤宮原さんは、ちょっとワルそうな印象でした、と言うのは冗談ですが(笑)自分のやりたいことや好きなことに従って動いている人なんだという印象でしたね。青島ビーチパークについても、僕の周囲でサーフィンしている人たちはみんな知っていたので、やはりそのイメージが強かったと思います。

―伊藤さんご自身もアウトドアに触れるようなことをしていますか?

伊藤僕は山が大好きで、登山はオールシーズン、雪山にも登りますね。最近はフリークライミングにもハマっています。でもこのあいだ青島に来たときに海に入ってサーフィンもいいなと思い始めていて(笑)いろいろと広がりすぎて困っているところです。

― 青島にはどんな印象を持ちましたか?

伊藤今年の4月に視察で来たのですが、エネルギー値の高さが印象的でしたね。この青島ビーチパークを中心に、青島ビーチビレッジも出来て、さらにこれから出来上がっていく。それは民間と行政が一緒に何年もやってきた積み重ねなので、新しいことを生み出すコミュニティがあるんだなと感じました。

―ブルーボトルコーヒーは2015年の日本初上陸以来、現在24店舗を展開しています。カフェと「ブルーボトル コーヒートラック」はどのように位置づけを変えていますか?

伊藤基本的に、カフェとトラックで大切にしていることに変わりはないです。ただ、カフェでコーヒーを提供するというのは屋内でコーヒーを楽しんでもらうということですよね。僕たちはもう少し違う場所でコーヒーを楽しんでもらえたらと思いました。コーヒーを外で飲むためのアウトドア用グッズを作るというだけでは、あまりやりたいことの本質的なストーリーが伝わらず、提供できる体験として弱い気がしたので、トラックに乗ってカフェのないところに出て行くということを考えました。

―「ブルーボトル コーヒートラック」のロケーションに青島が選ばれた経緯はどんなものでしたか?

宮原宮崎に青島ビーチパークっていう場所があって、そこでポップアップができるよって話をしました。僕は面白そうな人に会ったら、とにかく「一緒に何かやろうよ」が口癖なので(笑)そしたら、実はコーヒートラックの製作中というタイミングだったのかな?

伊藤もうトラックの製作に入ってた頃だと思います。「Coffee in Nature」というアウトドアコーヒーのプロジェクトを去年からスタートさせていたのですが、夏はトラックでビーチにいくっていうのはハマるなと思いました。でも、なにより宮原さんとの繋がりというのが、僕の中でとても大きかったです。「一緒に何かやろうぜ」っていうところからスタートする方が面白いものができる。それはトラックのバリスタも含めて、ブルーボトルコーヒーとしても大事なことだと捉えています。

宮原僕らの出会いとしてはゴルフだったけど、山が好きだったりキャンプが好きだったり海も行くし、アウトドアが好きな人間が一緒にやることで、何かしらのストーリーを創れるだろうなと思って、そういう話をしましたよね。

伊藤そうでしたね。

―人ありきで物事が動くのは、ブルーボトルコーヒーの企業文化が強いのでしょうか?

伊藤それはとても強いですね。僕がブルーボトルコーヒーの好きなところでもありますが、全くビジネスライクではないんです。新しいカフェを構える場合でも「ここでコーヒーを飲んだらどんな気持ちになれるのかな」という視点がまず最初にあって、その後から「これってビジネスは成り立つかな?」と考えるみたいな(笑)

宮原その人が見える感じがいいですよね。ブランドを創るのは、実はそうした生身の人間たちだから。ブルーボトルコーヒーに来てもらったのは、いま東京で流行ってるからではなくて、そうした人の繋がりがきっかけになって化学反応が生まれて欲しいからだよね。昨夜もブルーボトルコーヒーのスタッフさん達と偶然に青島のレストランで一緒になって、そこで交流が生まれたし。

伊藤あと、タイミングってありますよね。僕が登山やクライミングといったアウトドアにハマり始めたのって、ちょうど宮原さんに出会った頃でした。アウトドアに触れるようになって、もうちょっと気持ちのまま、心の赴くままを大切にして生きるようなことがやっと出来るようになった気がしてるんです。それまで僕は、どちらかというと周囲の期待に応えなきゃいけないって考えて自分の気持ちに歯止めをかけるようなタイプだったので、その変化のタイミングに出会いがうまく重なった気がしますね。

―どうしてアウトドアが変化のきっかけになったのでしょうか?

伊藤山に入ると時間の流れがやっぱり全然違うんです。2,000m級なんかの雪山って本当に音がしないんですよね。人工物だけじゃなくて雪に埋まっているから木も見えなくなっていて。数千年前、数万年前から変わってない時間を感じると、分刻みで動き回ったり、他人からどう見られるとか気にしたりとかって、本当に意味ないなって視点が変わっていきました。そこから自分が好きなものをベースにした方がいいんだって気がついて、チーム作りや経営にも繋がっていくんです。宮崎の人たちも、早朝にサーフィンして、そのあと普通の生活に戻ったりしますよね。そのリズムを体感してないと、そのあとにどんなものが飲みたいっていうこともわからないですよね。

―今回「ブルーボトル コーヒートラック」で使用されている「アウトドアブレンド」はどのように開発されたのでしょうか?

伊藤通常、商品の開発部分に関わることはほぼないのですが、今回、アウトドアの経験があることもあって、僕としては初めて意見をシェアさせてもらいました。アウトドアだと、店舗や自宅と違って環境が整ってないので、味が安定しにくいんです。それと、海でこれだけ空が広かったり、山だと高度が高かったり、環境が変わると味覚が敏感になったりもするので、それでも美味しく感じられるもの、ベースがしっかりして味がぶれないなかで、コーヒーの華やかな一面も感じられるものを目指しました。

宮原あと青島ビーチパーク限定のカクテルメニューなんかもそうだし。めちゃくちゃ暑い真夏のビーチに合わせた企画開発はしてもらいましたね。

伊藤僕らはそのシーンで体験を提供することを大切にしているので、その場所にあったものにしたいという思いはありますね。

―最後に、このポップアップ期間中に青島ビーチパークを訪れる人にとってどんな体験であって欲しいですか?

伊藤そうですね。もちろん新しいコーヒー屋さんが来たからちょっと行ってみようでもいいんです。すべて自信を持ってお出ししているのでドリンクを楽しんで欲しいと思います。でもどちらかといえば、ブルーボトルコーヒーのバリスタに会いに寄ってみた、くらいのノリで来てもらって、そこで何かしらの繋がりが出来ると嬉しいですね。

宮原青島ビーチパークがローカルとビジターの交差する場所になるというのは、ずっと目指してきたことろなので。せっかく「ブルーボトル コーヒートラック」に来てもらったからには、宮崎・青島のことを好きになって帰ってもらう。そういう機会になると良いですね。

伊藤諒 Ryo Itoh

Blue Bottle Coffee Japan 合同会社 ジェネラル・マネージャー

1982年東京都生まれ。大手総合商社に入社後、資源分野での物流/投資業務、経理業務を経験し、米国カリフォルニア大学バークレー校へMBA取得のため留学。留学期間中に米国ブルーボトルコーヒーにて日本事業立ち上げサポートのインターンとして勤務後、2016年5月にブルーボトルコーヒージャパンに入社。事業本部長として製造/物流/店舗開発等を担当した後、2018年から韓国/香港の市場開拓及び事業立ち上げも兼任。2020年8月より現職。

宮原秀雄 Hideo Miyahara

AOSHIMA BEACH PARK コンテンツプロデュ-サー / 株式会社Libertyship 取締役CSO

1973年山口県下関市生まれ。関西学院大学卒業後、博報堂へ入社。17年間アカウントプロデュース職を務める。その後独立起業し株式会社CANVASを設立。各種ブランドやクリエイティブのディレクション、新しいコミュニティのプロデュースを行う。2015年夏青島ビーチパーク創業より総合プロデューサーと統括ディレクターを務める。2020年10月リバティーシップの取締役に就任、ONE SAUNAやTRIPBASE AOSHIMAなどに携わる。